大黒湯の坂巡り

護国寺から不忍通りの富士見坂を上りつめると、春日通りと交差する大塚3丁目交差点。昔は都電のターミナルとしてずいぶんと賑わった界隈であったが、いまはその面影はない。「丸の内線の駅ができる予定であったが、住民の反対にあい、もっと東の茗荷谷に移った」とは、地元の親父が酒の席でよく語る話。  さて、東京の銭湯といえば必ず一本裏手のわかりにくい場所にあるのが通例だが、ここ大黒湯だけは堂々と春日通り沿いにある。二代目主人の岡嶋竹男さんによると、義父である初代が昭和5年に建てられた銭湯を買ったのが、昭和24年のこと。その頃の春日通りは今よりずっと狭く、大黒湯から通りまでも何軒か仕舞屋が建っていた。ところが昭和39年の道路拡張によって、引き家が行われたが、しっかりとした造りの銭湯だけは動かすことは出来ず、大通りが目の前にきてしまったという経緯。
 さて、この富士見坂。昭和の頃に大塚仲町で分譲されたマンションのキャッチフレーズが、「富士山が見える」であったというから、いまや音羽の高層ビルで見えなくなったとはいえ、やっぱりその名の通りの富士見坂。風呂上がりは白鷺坂を下ってみようか、湯立坂まで足を伸ばして氷川下神社に参拝しようか。